稲垣一樹行政書士事務所

群馬県高崎市の行政書士・住宅ローン専門ファイナンシャルプランナー


農地法と農振法について

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農業4法と言われる農地に関する法律が4つあります。それが以下の通りとなっています。

・農地法
・農業振興地域の整備に関する法律(農振法)
・農業経営基盤強化促進法
・農業中間管理事業の推進に関する法律

上記の中で農地を宅地等に変える際に関わることになるのが、農地法と農業振興地域の整備に関する法律(農振法)であり、農業と関わりのない一般の方も触れる機会のある法律ではないでしょうか。
今回はこの2つの法律についてお話をしたいと思います。

農地法とは

農地法とは農地の利用と管理を規定する法律です。第1条においてこの法律の目的が以下のように定義されています。

(目的)
第一条 この法律は、国内の農業生産の基盤である農地が現在及び将来における国民のための限られた資源であり、かつ、地域における貴重な資源であることにかんがみ、耕作者自らによる農地の所有が果たしてきている重要な役割も踏まえつつ、農地を農地以外のものにすることを規制するとともに、農地を効率的に利用する耕作者による地域との調和に配慮した農地についての権利の取得を促進し、及び農地の利用関係を調整し、並びに農地の農業上の利用を確保するための措置を講ずることにより、耕作者の地位の安定と国内の農業生産の増大を図り、もつて国民に対する食料の安定供給の確保に資することを目的とする。

少し分かりにくい文言ですが、農地を農地以外の土地にすることを規制し、農地を効率的に利用することにより、日本の農業を守り、安定して米や野菜といった食料を確保していきましょうということが書いてあります。農地が無秩序に宅地に転用されてしまうと、日本の食料自給率が下がり、海外への食料の依存度が高くなります。現在日本の食料自給率はカロリーベースにおいて38%となっており、すごく単純に考えると日常の食事のうち62%は海外から輸入した食物を食べているということになります。食料自給率はアメリカの104%、オーストラリアの104%などと比べ低い水準となっており、ほぼ同規模の国土面積のイタリアの58%比較しても見劣りする水準となっています。日本の食料自給率の低下の主な要因は、外国からの輸入が多い小麦を使ったパンやパスタや輸入に頼る畜産物(肉類)の消費の増加となっていますが、農地の宅地への転用による減少や、農業従事者の減少も要因とされています。食料自給率が下がると、世界情勢や輸入先の国の経済、社会情勢により日本に食料が届かなくなったり食品が高騰する可能性があります。最近ではコロナウイルスによる物流の停滞や、ロシアのウクライナ侵攻により小麦の輸入価格が高騰したことが記憶に新しいと思います。また農地が減少することにより、自然環境の破壊や農業が産業の中心である地域においては、地域経済に大きな影響を及ぼす可能性があります。

以上の様に農地の減少により、食物や環境において多くの問題が起こる可能性があります。そのような事態を防ぐために農地を保護することを目的とした法律が農地法です。

農業振興地域の整備に関する法律(農振法)とは

もう一つ、代表的な農地に関する法律として農業振興地域の整備に関する法律(農振法)があります。農振法の第一条では以下のように目的が定義されています。

(目的)
第一条 この法律は、自然的経済的社会的諸条件を考慮して総合的に農業の振興を図ることが必要であると認められる地域について、その地域の整備に関し必要な施策を計画的に推進するための措置を講ずることにより、農業の健全な発展を図るとともに、国土資源の合理的な利用に寄与することを目的とする。

農振法では特定の地域を「農業振興地域」として指定し、その地域内の保全、整備を進めることにより農業の生産性向上を図ることを目的としています。指定される農地は「今後おおむね10年以上にわたり農業上の利用を確保すべき土地」とされ、農業振興地域は「青地」とも呼ばれます。これは農振計画を表した図面において農用地区域は青色で塗られていることから青地と呼ばれます。また農振法3条の2の2項において以下のように記載されています

三条の二・2項
基本指針においては、次に掲げる事項につき、農業振興地域整備基本方針の指針となるべきものを定めるものとする。
一.確保すべき農用地等の面積の目標その他の農用地等の確保に関する基本的な方向
二.都道府県において確保すべき農用地等の面積の目標の設定の基準に関する事項
三.農業振興地域の指定の基準に関する事項
四.その他農業振興地域の整備に際し配慮すべき重要事項

農振法では確保すべき農用地面積の目標を設定し、また各都道府県においても農用地面積の目標を設定することを定めています。令和2年に農林水産大臣が公表した基本指針において、令和12年の全国の農用地面積を397万haとなるよう目標を設定しています。令和元年現在の農用地区域内農地の面積が約400万haとなっていますが、今までのすう勢を反映すると令和12年の農用地区域内農地の面積は385万haになるとされています。これを農用地区域への編入促進、荒廃農地の発生防止を行うことにより目標とする面積まで誘導することとしています。

以上のように農業振興地域を指定し、その整備について定めたものが農振法です。

群馬県の農業振興地域整備基本方針

群馬県の農業振興地域整備基本方針を確認すると、群馬県では令和元年において農用地面積(荒廃農地を除く)が5.9万haとなっていますが、令和12年の確保すべき農用地面積の目標を5.4万haと設定しています。また群馬県の農業地帯を中部・西部・吾妻・利根沼田・東部の5地域に分けそれぞれの農業上の土地利用、整備、保全などについて基本的な方針を定めています。群馬県は首都圏からも近く自然景観や観光資源に恵まれていることから農業だけでなく、工業、観光などの分野についても今後更なる発展を見込んでいます。その為各産業間において、土地の利用についてバランスを取っていく必要があります。例えば、伊勢崎、太田などにおいては北関東道、上武道路などの整備が続いており、今後その道路及びその周辺の開発の為に利用される農地が増加すると想定されることから、農用地の確保については慎重であり、特に農振除外については厳しく審査をしている印象があります(実際に私の知り合いの行政書士も伊勢崎、太田は除外が厳しいと話す方が多いです)。目標としている農用地の面積があるということは、どこかの青地の農振除外を認めてしまった場合は、別のどこかを青地と指定しなければいけないことになり、様々な産業や都市計画に配慮しつつも農地や農業従事者の生活を守っていく必要があると群馬県の農業整備基本方針には謳われています。

参照:農業振興地域整備基本方針(令和3年6月)https://www.pref.gunma.jp/uploaded/attachment/22988.pdf

まとめ

今回は農地法と農業振興地域の整備に関する法律(農振法)についてお話をさせていただきました。農地法と農振法の違いを簡単にまとめると以下のようになります。

農地法は、農地そのものの利用や所有に対する規制を通じて、農地の保全を目的としています。

農振法は、特定の地域における農業の振興とそのための基盤整備を目的としており、農業が継続される地域を守るための法律です。

私は今まで行政書士として、また不動産業者として農地を農地以外の土地に転用することに多く関わってきました。しかしながら農業人口の減少、生産性の向上が課題とされている今、今後は宅地に転用して価値を向上させるのではなく、農地を農地のまま活かしつつ、その土地の価値を向上させていくことも重要な業務だと考えています。


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