当事務所代表は行政書士業務と同時に不動産業にも従事しています。現在高齢化により土地や空き家の管理ができないなどの理由から、不動産の売却相談は増え続けています。主要駅が近く立地の良い土地はもちろん、一般的に建物が建てにくいとされる市街化調整区域の土地であっても、金額は市街化区域の土地よりは下がるものの、売却することは可能です。しかしながら、どうがんばっても売却が困難な不動産もあります。例えば囲繞地(接道のない土地)や、青地の農地(農地転用が極めて困難で売却先が限定される農地)などについては度々売却の相談をいただくことがありますが、売却は極めて困難です。そのような土地を国に帰属させる(引き取ってもらう)制度が相続土地国庫帰属制度です
相続土地国庫帰属制度の目的
相続の発生により、土地を望まずして相続してしまい、手放そうとしても売却することもできずに、管理がされなくなってしまった土地が増加しています。そのような土地は、所有者が亡くなった後も相続手続きをされることがなく、最終的には現在の所有者が分からない「所有者不明土地」となってしまいます。所有者不明土地となり、そのまま管理されない状況が続くと近隣の治安の悪化や景観の悪化を招くことになります。このような所有者不明土地の発生を防ぐために創設された制度が相続土地国庫帰属制度です。
手続きの流れ
①法務局への相談
まずは法務局に電話または対面での相談を事前予約します。所在する土地を管轄する法務局で相談をするのが基本ですが、土地が遠方にある場合は最寄りの法務局(本局)での相談も可能です。
②申請書の作成・提出
審査手数料分の収入印紙(14,000円)を貼り付けた申請書を作成し、所在する土地を管轄する法務局の窓口に提出します。郵送での申請も可能です。
③要件審査
法務大臣(法務局)において提出された書面を審査し、土地に出向いて実地調査を行います。場所がわかりにくいなどの事情がある場合は承認申請者が同行をお願いされることもあります。
④承認・負担金の納付
帰属が承認された場合は承認申請者は負担金額を日本銀行へ納付します。
⑤国庫帰属
申請承認者が負担金を納付した時点で、土地の所有権が国に移転します。所有権移転登記は国が実施します。
以上がおおまかな手続きの流れになります。要件審査は8か月程度が想定されていますが、法務省によると申請の受理からの申請から結果が出るまでの期間は平均6.5か月とのことです。
申請できない土地の要件
申請できない土地としていくつかの要件が定められています。特に問題になりがちな要件は以下の4つかと思います。
①建物のある土地
建物の管理に大きなコストがかかるため帰属はできないとされています。
②担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
抵当権・地上権・賃借権などがついている土地は帰属することができません。
③通路またはほかの他人による使用が予定される土地が含まれる土地
申請土地の一部に、他人に利用されている通路、墓地、神社の境内、水路として利用されている土地がある場合も国と使用者との間で権利の調整が必要となるため、承認申請を行うことができません。
④土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地
果樹園の樹木や竹やぶ、放置車両、老朽化した廃屋がある土地も承認申請ができません
その他にもさまざまな要件があり、承認申請をするだけでもかなりハードルが高いと感じます。
参照:法務省 相続土地国庫帰属制度の概要 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00457.html#mokuji4
費用
①審査手数料 14,000円(土地一筆あたり)
審査手数料については申請を取り下げた場合や、審査の結果、却下、不承認となった場合でも返還されないので注意が必要です。
②負担金 原則20万円
負担金は原則20万円となっていますが、土地の区分により変わります。
【宅地】
・原則20万円
・宅地の内、都市計画法の市街化区域又は用途地域が指定されている地域内の土地は面積の区分により変わります。
例)市街化区域の宅地200㎡→793,000円
【農地】
・原則20万円
・以下の農地は面積区分に応じた金額となります
ア 都市計画法の市街化区域又は用途地域が指定されている地域内の農地
イ 農業振興地域の整備に関する法律の農用地区域内の農地(青地の農地)
ウ 土地改良事業の施工区域内の農地
例)青地の農地1000㎡→1,128,000円
【森林】
・面積区分に応じた金額となります
例)森林3000㎡→299,000円
【その他】雑種地・原野等
面積にかかわらず20万円
算定金額の詳細については以下のリンクをご確認ください。
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00471.html
申請件数と承認率
2023年4月27日から始まった相続土地国庫帰属制度ですが、2024年10月31日現在において2850件の申請があり、帰属件数は973件となっています。左記の件数については現在審査中の申請も含まれると思われ、承認率は90%以上とされておりかなり高い確率となっています。しかしながら、申請には前述したような多くの要件があり、相談したものの申請にいたった土地はかなり少数だと思われます。相談件数については公表されていませんが、2万件超に及ぶのではないかと言われており、そうなると帰属を希望したものの、実際に帰属にいたった土地は数パーセントにとどまるのかなと思います。それでも制度開始から約1年でそれだけの相談があったということは、いかに不動産の管理に困っている人が多いのかということを感じます。
まとめ
実際に私が不動産に携わっているなかでも、どうがんばっても売却が困難な土地は多くあります。私は調整区域をメインとして不動産業に携わっていることもあり、冒頭でもお話したように、特に多く寄せられる相談は農業振興地域内農用地区域内農地(いわゆる青地)の売却の相談です。青地は農地以外への転用が極めて困難であり、多くの方がその処分や管理に困っています。固定資産税に関しては大きな金額ではないものの、年間の管理費や手間を考えるとお金を払ってでも処分したいという需要は少なからずあります。どの不動産屋に相談しても取り合ってもらえなかった不動産の処分について、国庫への帰属という新たな方法ができたことは所有者不明土地の解消に向けて画期的な制度だと思います。当事務所では不動産の売却についてアドバイスを行いつつ、どうしても売却が困難な不動産については国庫帰属という選択肢を提案させていただいております。ご相談お待ちしております。
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