公正証書とは法律の専門家である公証人が作成する公文書のことです。遺言書は公正証書で作成するべきだと言われていますが、そもそも公正証書とは何かを正確に分かる方は少ないでしょう。実際に公正証書を作成した経験のある方も少ないと思います。今回はこの公正証書についてお話をさせていただきます。
公証制度と公証人
「公証制度」とは国民の私的な紛争を未然に防ぐことを目的としており、「裁判」が紛争が発生した後の解決を目的としているのに対して、公証制度は紛争の予防を目的としています。「公証人」とは公証人法に基づき、主に元裁判官や元検察官、元弁護士などから公募により法務大臣が任命しています。一応公務員という扱いになるようですが、国から給与や補助金などは受けておらず、依頼人から支払われる手数料収入より収入を得ています。事務員を雇う際も公証人自らが雇うことになります。そのような業態から手数料制の公務員とも言われ、所属する公証役場によって収入も大きく変わるようです。つまりは個人事業主のような感じでしょうか。
公証役場とは
公証役場は公証人が執筆する事務所です。全国に約300か所あります。群馬県では前橋、太田、高崎、桐生、伊勢崎、富岡の6か所に存在します。公証人連合会のサイトにそれぞれの公証役場のメールアドレスが書いてありますが、ドメインがバラバラなのが個人事業主っぽいです。前橋市民は前橋公証役場に行くとかの決まりはなく、どこの公証役場に行っても問題ありません。
日本公証人連合会:https://www.koshonin.gr.jp/list/gunma
公正証書として利用される契約の一例
公正証書が利用される契約には売買契約、賃借契約、贈与契約等様々なものがあります。以下はその一例です。
・任意後見契約
任意後見契約は、委任者が判断能力が十分なうちにあらかじめ受任者と契約を結び、将来委任者が認知症や精神障害等で判断能力が不十分になったときに、自分の後見人になってもらうことを委任する契約です。この契約は公正証書で締結することが必須となっています
・遺言公正証書
前回のコラムにも書きましたが、公正証書で遺言を残すことにより、より確実に遺言の目的を達成することができます。
・離婚給付契約
協議離婚の届出の際に、財産分与や子供の養育費、面会の交流について公正証書で取り決めをすることができます。公正証書には執行力がある為、養育費が支払われないといった際には強制執行により相手方の財産を差し押さえることが可能となります。
公正証書を作成するメリット
公正証書は公文書となり、一般の契約書に比べて信頼性がある書類となります。作成の際は公証人が本人に会い、意向を面前で確認をした上で契約書を作成することになるので、「自分はそんな契約をした覚えはない」となることはありません。また万が一公正証書で締結した契約について後々裁判などになった際は、公正証書は強力な証拠として採用されます。
特に金銭の支払い契約において金銭の支払いを怠った際は、財産に対して強制執行をする旨の条項をつけておけば、相手方が支払いの約束を破った際には、相手の財産を差押えることができます。一般の契約書でも相手の財産を差し押さえることはできますが、裁判の手続きが必要になり、弁護士費用の負担など、金銭的にも時間的にも多くの負担が発生します。公正証書ではこのような裁判の手続きを経ずに強制執行が可能となります。これが公正証書を作成する最も大きなメリットではないでしょうか。
公正証書を作成するデメリット
公正証書の作成には公証人の手数料がかかります。金額は公正証書の目的価額によって以下のように異なります。
目的の価額 | 手数料 |
---|---|
100万円以下 | 5000円 |
100万円を超え200万円以下 | 7000円 |
200万円を超え500万円以下 | 11000円 |
500万円を超え1000万円以下 | 17000円 |
1000万円を超え3000万円以下 | 23000円 |
3000万円を超え5000万円以下 | 29000円 |
5000万円を超え1億円以下 | 43000円 |
1億円を超え3億円以下 | 4万3000円に超過額5000万円までごとに1万3000円を加算した額 |
3億円を超え10億円以下 | 9万5000円に超過額5000万円までごとに1万1000円を加算した額 |
10億円を超える場合 | 24万9000円に超過額5000万円までごとに8000円を加算した額 |
目的の価額というのがちょっと分かりづらいと思います。いくつか例をあげて説明します。
・売買契約の場合
土地を5000万円で売買する契約を結んだとします。売主は土地を買主に移転する義務があり、買主は売主に代金を支払う義務があります。この場合売主は5000万円の土地を買主に移転する、買主は5000万円を払うということになり、目的の価額は売主5000万円+買主5000万円=1億円となり、上の表に当てはめると手数料の金額は43000円となります。
・遺言の場合
遺言は、遺言により相続または遺贈する財産の価額を目的とします。相続人、受遺者ごとに別個の法律行為となる為、各相続人、受遺者が受け取る金額ごとに手数料を算出し、その価額を合算した金額が手数料の総額となります。例えば1億円の財産があり、相続人が1人の場合は上の表に当てはめると手数料は43000円です。同じ例で相続人が2人となり妻が6000万円、長男が4000万円相続する場合は上の表で当てはめていくと、手数料は妻が43000円、長男が29000円となり合計72000円となります。また遺言には遺言加算というものがあり、目的価額の合計が1億円までの場合は11000円が加算されます。その結果72000円+11000円=83000円となります。遺言の場合は、遺言者が高齢の場合などに公証役場までこれないときは出張にも対応してくれますが、別途出張料が発生します。
・賃貸借契約の場合
建物を賃料月20万円で3年間賃貸する契約とした場合、貸主は建物を月20万円で3年間借主に貸す義務があり、借主は月20万円を3年間貸主に支払う義務が発生します。そうなると賃料20万円×36か月=720万円が貸主、借主それぞれの目的価額となり、貸主720万+借主720万=1440万円が目的価額となります。上の表に当てはめると、手数料は23000円となります。
やっぱり少し分かりにくいなと思うので、日本公証連合会のサイトを確認していただければと思います。ちなみに公証手数料はクレジットカード支払いも対応しているそうです。
参照:日本公証人連合会https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow12
まとめ
今回は公正証書についてお話させていただきました。一般の方はなかなか公正証書を作成する機会はないと思いますが、高齢化社会において公正証書遺言の作成は相続トラブルの防止に大きな効果を持ち、夫婦の3組1組が離婚すると言われる現代において、財産分与や養育費の支払いに関する公正証書は子供の利益を守る為にも有効だと思います。何より契約は我々の生活の中に常に存在することなので、トラブルの予防として公正証書の活用を検討するのもよいと思います。
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