「相続が発生して自分が相続人なんですけど、亡くなった人はお金はなかったし、残っている財産は僻地の空き家や、処分できそうもない畑や田んぼしかない…。なので相続放棄をするつもりなのですが、相続放棄しても不動産を管理する義務があるんですか?」こんな質問をいただいたことがあります。空き家が問題となっている昨今、このような疑問をもつ方は多いのではないでしょうか。今回はこちらの疑問についてお話をさせていただきます。
根拠となる法律
相続放棄後の不動産の管理義務については民法940条が根拠となります。実は民法940条は2023年に改正があり、以下のように変更となりました。
変更前
民法940条 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。
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変更後
民法940条 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
変更前においては、相続放棄をした場合においても相続人が1人の場合や、複数人相続人がいても全員相続放棄をした場合は、最後に相続放棄をした人に管理義務がありました。この管理義務を免れる為には、相続財産管理人(相続人が誰もいないとき等に相続財産の管理や清算をする人。)の選任を家庭裁判所に申立てをする必要がありました。それが民法の改正により、「その放棄のときに相続財産に属する財産を現に占有する者」に管理義務が発生することに変更になりました。現に占有とは、例えば被相続人の名義の実家に住んでいる人、被相続人の畑や山林を管理していた人などが一般的でしょう。例えば実家の親が亡くなり、同居していた長男が相続放棄、その後別居していた次男も相続放棄した場合には、改正前の民法においては最後に相続放棄をした次男に管理義務がありましたが、改正により、この場合は現に占有(同居)していた長男に管理義務が残ることになります。相続放棄をしたとしても、現にその家に住んでいるのだから、その人が管理義務を負うのは当然かなと思います。ちなみに長男も次男も実家に同居していた場合は、最後に相続放棄をした次男が管理義務を負うことになります。また条文をよく読むと、改正により管理義務から保存義務に変更になっています。管理義務と保存義務は実質的には内容は変わらないと思われます。
保存義務を怠ると
ちなみに保存行為とは財産の現状を維持する行為であり、家屋であれば乱暴に扱ったりしないこと、壊れたところがあれば修理するという行為です。不動産の保存義務を怠ると以下の例のようなリスクがあるので注意が必要です。
・どうせ相続放棄するからといって不動産を乱暴に扱ったりすると、不動産の価値が下がる可能性があります。仮に被相続人が借金をしていて、債権者(お金を貸していた人)がその不動産を売却して借金の返済に充てようと考えていた場合、不動産の価値が下がったことに対して損害賠償を請求される可能性があります。
・建物の外構が崩れかかっているのを放置して、実際に外構が崩れて通行人にケガをさせた場合、通行人から損害賠償の請求をされる可能性があります。
あくまでも保存義務。やり過ぎに注意。
保存義務を負うことになってしまった場合はあくまでも保存行為にとどめることが大切です。相続放棄をしたのに、良かれと思ってリフォームをしてしまったり、管理が面倒だからと建物の解体などをしてしまうと相続放棄が受理された後であっても、相続することを承認したと見なされてしまうことがあります。その場合は被相続人に借金があった場合にはそれも引き受けなければならないこともあるので注意が必要です。
保存義務を免れるには
保存義務を負ってしまった場合に保存義務を免れるためには、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てる必要があります。選任を申し立てる際は候補者を立てることができ、相続放棄者や親族を候補者に立てることもできますが、一般的には弁護士や司法書士などが選任されることが多いようです。相続財産清算人を立てる際には、清算人に対して相続財産を管理するのに必要な費用や報酬を支払う必要があり、申し立て時に10万~100万円程度を予納金として支払う場合があります。相続財産清算人の選任は申立てから約1か月の期間がかかります。
参照:裁判所「相続財産清算人」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_15/index.html
現に占有する人が誰もいない場合は
現に占有する人が誰もいない不動産を相続人すべてが相続放棄した場合は、利害関係者(お金を貸していた債権者など)や検察官が清算人の申立てを行います。清算の結果残った財産については国庫に帰属されることとなります
まとめ
今回は相続放棄後の不動産の管理義務(保存義務)についてお話をしました。相続放棄をしたとしても現に不動産を占有していた場合は保存義務を課せられます。相続財産清算人を選任する場合も高額な予納金を支払わなければいけない可能性があるので、安易に相続放棄を選択するのは注意が必要です。しっかりと被相続人の財産調査をして相続財産の価値を確認し、プラス財産とマイナス財産を比較した上で相続放棄を選択すべきでしょう。また現在は相続土地国庫帰属制度もあるので、色々と条件はありますがこちらを検討するのも一案でしょう。
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